渇水地獄! (美ヶ原高原ロングトレイル 4日目)

はじめに

5月下旬に挑戦した美ヶ原高原ロングトレイルの4日目の記録になります。
前回は、三峰山に登頂し、その後少し降った二ツ山への登山道の途中でテント泊を行いました。そして水分の残量は残り1Lを切ってしまいました。




ロングトレイル4日目

2022年5月30(月)

5:20 ロングトレイル再開

起床し、テントを撤収してパックパッキングを済ませて、出発しました。

水の残量は残り800mlほど。この量でこれから先に越えなくてはならない山が二つ。その後には山荘があるのでそこで水分補給ができるとわずかな期待がありました。
つまり一つの山を登るのに、使える水は400ml分です。15kgの荷物を背負って山道を歩くには全然足りない量ですが、進むしかありません。



二ツ山、そして鉢伏山。二つの山を抜けるには約9kmの道のりを歩くしかありません。まずは最初の二ツ山まで辿り着くことに集中しました。

歩きながら「刹那主義」というのは、近代の考え方なんだなと思いました。
今日だけのことを考えたら、水も食料も一気に消費してしまいます。生き残るためには常に未来のことを考えないといけません。「明日のために」、水を残す必要があるのです。



沢がありました。水は遠くからでもキラリと光るので分かります。普段は分からなくても、極端な水不足に陥ると、人間の中に眠る水センサーが反応するのでしょう。しかし遠いし藪が多いです。写真で見るよりも斜度がありました。水を汲みに行くか悩んだのですが、やめておきました。後で結構後悔しました。



水を半口含んでは看板標識まで歩くというルールを自分に課しました。そうやって水の消費を抑えたのです。看板が離れている区間もあったので、必ずしも厳格にマイルールを守ったわけではないですが、規律がないと水をすぐに飲み干してしまうことになります。お腹は全然空きません。水のことで頭がいっぱいです。



しばらく歩くとまた沢を発見しました。森の奥に見えます。しかし今度はさらに沢まで遠い。沢に降りたら上がって来れないかもしれません。さらに水を汲みに行くのに、余分な水分が必要になると思い、諦めました。



稜線まで出ると、枯れている気が沢山ありました。まるで山火事にでもあったかのようです。しかし高い木がなく、風が抜けるので心地よいです。



二ツ山の山頂への標識です。チェックポイントに到着。
重い荷物を下ろして、薄手の長袖ジャケットのポケットに貴重品とペットボトルだけを入れて、山頂へ向かいます。



8:35 二ツ山 登頂

標識がちょっとショボいです。ここまでの登山道が少し藪に覆われていたので、この山頂をスルーされる方が多いのかもしれません。



二ツ山の山頂からの眺め。



少し休んでから、次の山「鉢伏山」を目指します。
喉はカラカラでしたが、良い景色を見れば、撮影するくらいの力はまだ残っていました。



山の上に標識が見えます。鉢伏山にしてはあまりにも距離が近過ぎます。GPS地図アプリYAMAPにも山頂名が載っていなかったので、不思議に思いました。



標識は中間地点を表すものでした。
山というか丘というポジションだったのでしょうか。



鉢伏山を目指して登っていきます。
脱水症状に陥ったのか、喉の上に舌が張り付いて、呂律が回らなくなりました。仕方ないので残っている僅かな貴重な水を飲みます。



日が出ると暑いくらいでした。日陰があればそちらを歩きました。
この辺りで1人のハイカーとすれ違いましたが、疲労と乾きで話をする余裕はありませんでした。とても軽装なハイカーだったので、登山口(下山口)が近いと思ったのですが、まだ距離が少しありました。
でも人がいたということで、かなり安心感を感じました。これでもし自分が倒れても発見してもらえる、と。



鉢伏山の山頂まで残りわずかの所で、ベンチがありました。荷物を下ろして、身軽になってから山頂に向かいました。歩いて200mほどの所です。
もうこの時点で水の残量はゼロです。



10:50 鉢伏山 登頂

山頂周りには神社や展望台、ベンチがありました。



残念ながら展望台には上がれませんでした。後でここを管理している山荘の方から聞いたのですが、登れることは登れるけど、万が一事故が起きた時に責任が持てないので閉鎖にしているとのことです。最近は厳しい時代になりましたからね。たしか東京オリンピックの前年頃に建てられたとのことです。



鉢伏山の山頂から、諏訪湖が見えました。
「諏訪湖の水が飲みたい!」
本当にそう思いました。そのくらい喉が渇いていました。



せっかく神社がすぐ近くにあるのだから、安全祈願をして行こうと思い立ち寄ってみることにしました。



お供え物があります。左には野菜。右には夏みかんが2個。野菜は乾涸びていました。夏みかんも乾涸びているだろうと思いましたが、見たところ普通です。手に持って観察しても普通でした。

ふと、思い出します。「神様へのお供え物は、旅人が道中で飢えを凌ぐために食べてもいい」という話です。

近くのベンチに座って、皮を剥いてみると、食べられそうです。水に渇していたので、貪るように食べました。「あしたのジョー」の力石徹が減量中にトマトにかぶりつくシーンが脳裏に浮かびました。そのくらい水分を欲していました。これまでの人生で一番水のことばかり考えていた1日でした。

水・水・水。とにかく人間に一番必要な物は水です。ドラゴンボールには水を手に入れるために天下一武道会に出場した選手もいるし、北斗の拳では、ケンシロウは最初に水を求めるし、一杯の水のために老婆が命をかけるシーンがあります。

最も大事な物は、究極的には”水”のみです。

それを思い知った1日でした。

残ったもう1つの夏みかんは、他の旅人のために残しておこうと思ったのですが、あまりに美味しかったので、残りも食べようと思い手に取りました。そんな時に、1人の男性が現れました。



夏みかんは上着のポケットにしまい、後でバックパックに入れました。

現れた男性と話をしてみると、その方は地元の方で野鳥の観察や写真撮影によく山に訪れるそうです。
今回は、上画像の場所の写真を撮りに来たようです。これは諏訪の御柱祭の御柱が祀られている写真です。藪や木の背後にあるので死角になり、一般のハイカーには気付きにくい場所にありました。



地元男性の方も山荘に寄るというので、一緒に歩きました。この辺りのことを色々教えていただきました。
山小屋がいくつかありましたが、どれも現在は使われていないそうです。




地元男性の方と山荘へ立ち寄ります。
この山荘では珈琲を出していることを事前に知っていたので、ここで水分補給をしたかったのです。ちなみに珈琲一杯500円です。

水に困っていることを話し、ペットボトルに水を汲ませて頂きました。ペットボトル2本分、これで1L分の水分確保です。さらに珈琲で水分補給もできたので、もうこれで水に悩まされなくて済みそうです。

山荘のオーナーから話を聞くと、日本百名山ひと筆書きで有名な田中陽希さんも、水の補給に苦しんで、この山荘に走ってたどり着くと、水をガブガブ飲まれたそうです。
やはり美ヶ原高原トレイルは、【渇水地獄トレイル】なんだなと思いました。



水を補給して十分休んだ後に、再出発します。
かなり気分的に楽になりました。



山荘からはしばらくロードが続きます。



ロードを行き過ぎてしまいました。
YAMAPを見て道路に分岐点があることは知っていたのですが、未舗装路で、しかも下ってくると看板が死角になって見過ごしてしまいました。



13:25 ブナの木権現

最後のチェックポイントです。
ここで残りの夏みかんを食べます。
ちょうど良い木陰になり、休憩するにはピッタリの場所でした。
マイナスイオンやパワーを感じました。



後はゴールの牛伏寺(ごふくじ)を目指すだけです。



牛伏寺までの道は沢沿いです。あれだけ水不足に悩んだのに、ロングトレイル終盤で水が豊富な場所を歩くなんて、なんという運命の皮肉でしょうか。諏訪湖の水を見て飲みたいとさえ思ったのに、今では沢を見ても水を汲もうとする気さえ起きません。

少し下ると、軽装の若い男女とすれ違いました。ジャージ姿だったのでひょっとすると学生だったのかもしれません。だからゴールも近いと期待したのですが、まだまだ先は長かったです。

後で知ったのですが、この辺りは登山だけでなく、ダム施設の見学でも人気な場所のようです。だからひょっとしたらダム見学をしていたのかもしれません。



シマリスに出会いました。なんとこの砂防ダムゾーンで合計5回もリスを見ました。しかも意外と近い距離です。



間伐材を利用した橋。これぞ本当のSDGsですね!



チェンソーで刻みを入れて、滑り止めにしているようです。こういうのもやはり山で暮らす知恵ですね。



標識の上に骨が乗っています。
おそらく動物の骨か人骨か分からないから、知識のあるハイカーが通った時に判断して欲しいという意図で置いたんだと思います。

登山で落とし物がある時は、登山道沿いの木の枝や標識に引っ掛けておくことがよくあります。多分そのパターンでしょう。



おっ! 山小屋が見えました。小屋をセルフビルドした自分にとっては興味の対象です。



建設事務所の資材庫の表札がありました。
間伐材を使った階段。いつか自分も作ってみたいですね。
基礎部分も間伐材のようです。



角度を変えてもう一枚。
やはり傾斜地には独立基礎の山小屋が良さそうに思えます。



さらに歩くと、対岸に東屋が見えました。



こちらは、最初は何の建物か分からなかったのですが、公衆トイレでした。中は綺麗でした。



どうやらこの辺り一帯は、無料キャンプ場のようです。もうすぐゴールではあったのですが、結局ゴールしたとしてもスタート地点に車を停めてきたので、そこまで戻らなくてはなりません。それに今晩は雨予報だったので、ここで泊まることにしました。



立派な炊事等もあります。水は蛇口から出ますが飲用不可。どうやら沢水を直接取り込んでいるようだったので、小型浄水器を使ってから飲みました。合計1L分ほど飲みましたが、お腹を壊しませんでした。



利用者は自分の他に数組。いずれも対岸にテントを張られていました。なのでこの東屋は誰も利用しないと判断し、ここにテントを張らせてもらいました。

16:00 テント設営

夜になって雨が降り出しましたが、東屋のおかげで全く濡れません。ラッキーです。
今回使わせてもらったキャンプ場はとても綺麗だったのでマナーの良い方達に愛用されているのだと思います。
ゴミも全くなく、どこから飛ばされたのかマスクが一枚落ちていただけでした。




おわりに

美ヶ原高原ロングトレイルも、最終盤です。濃い数日間となりました。
そして水の大切さを痛いほど思い知らされました。人生で最も渇きに苦しみ、水のありがたみを感じた1日となりました。
水に感謝!



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